或る忠告/太宰治を朗読
ごきげんよう、ベルです。
今年初めての朗読動画を公開しました。
ぜひ、オチまでじっくり聞いていただけると嬉しいです!
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或る忠告/太宰治の全文
※動画のご視聴がまだの方は、感想に入る前にぜひ全文をご覧ください。
「その作家の日常の生活が、そのまま作品にもあらわれて居ります。
ごまかそうたって、それは出来ません。
生活以上の作品は書けません。
ふやけた生活をしていて、いい作品を書こうたって、それは無理です。
どうやら『文人』の仲間入り出来るようになったのが、そんなに嬉しいのかね。
宗匠頭巾をかぶって、『どうも此頃の青年はテニヲハの使用が滅茶で恐れ入りやす。』などは、げろが出そうだ。
どうやら『先生』と言われるようになったのが、そんなに嬉しいのかね。
八卦見はっけみだって、先生と言われています。
どうやら、世の中から名士の扱いを受けて、映画の試写やら相撲の招待をもらうのが、そんなに嬉しいのかね。
此頃すこしはお金がはいるようになったそうだが、それが、そんなに嬉しいのかね。
小説を書かなくたって名士の扱いを受ける道があったでしょう。殊にお金は、他にもうける手段は、いくらでもあったでしょうに。
立身出世かね。小説を書きはじめた時の、あの悲壮ぶった覚悟のほどは、どうなりました。
けちくさいよ。ばかに気取ってるじゃないか。
それでも何か、書いたつもりでいるのかね。
時評に依ると、お前の心境いよいよ澄み渡ったそうだね、あはは。
家庭の幸福か。
妻子のあるのは、お前ばかりじゃありませんよ。
図々しいねえ。此頃めっきり色が白くなったじゃないか。
万葉を読んでいるんだってね。
読者を、あんまり、だまさないで下さい。
図に乗って、あんまり人をなめていると、みんなばらしてやりますよ。
僕が知らないと思っているのですか。
責任が重いんだぜ。
わからないかね。
一日一日、責任が重くなっているんだぜ。
もっと、まともに苦しもうよ。まともに生き切る努力をしようぜ。
明日の生活の計画よりは、きょうの没我のパッションが大事です。
戦地に行った人たちの事を考えろ。
正直はいつの時代でも、美徳だと思います。
ごまかそうたって、だめですよ。
明日の立派な覚悟より、きょうの、つたない献身が、いま必要であります。
お前たちの責任は重いぜ。」
と或る詩人が、私の家へ来て私に向って言いました。
その人は、酒に酔ってはいませんでした。
或る忠告/太宰治の感想
朗読動画の中でも好評のコメントが多く大変嬉しいです!
始めは「何をグチグチ言っているんだ?」「どういうことだ?」と思った方が多いと思います。
私もなんだか耐えるような気持ちで、頭に「?」を浮かばせながら読み進めていました。
しかし何度か読んでみますと、この愚痴の選び方もなかなか凝っているように感じてくるのです。
アンチパターン、コンプリート!
SNS時代の現在の方が”ノイジー・マイノリティ”に悩まされる方が多いと思いますから、共感を呼ぶものだと思います。
そして、太宰は忘れません。
最後に爆弾的なオチを投下!
「酔ってでもいないと、こんなおかしなことって言わないですよね?」
時を越えてスカッとジャパン!ありがとう。
文豪の作品は苦手な方や、太宰はちょっと…という方もいらっしゃったみたいですが、この作品でだいぶイメージが変わったようです。
確かに、「よく言った!」「親近感が湧いた」という気持ちになるかと思います。
しかし一方で忘れてはいけないことは、誰でも”或る詩人”側になってしまう危険性があるということではないでしょうか。
今は悪態をついている人を笑っている立場ですが、苦手な人に対して、先程羅列したような嫌な感情が浮かぶことってありますよね。
それをポロっと口に出したり、SNSの文字に載せたりしてしまうと、太宰のように一蹴されてしまうかもしれません。
いや、太宰の方こそ今の時代に生きていたならば、炎上系ツイッタラーか”ねらー”にでもなっていそうな気がします(笑)
そして、こういった皮肉っぽいネガティブなお話に安心感を覚えてはしゃいでしまう私も、まだまだだなと思いました…
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それでは、ごきげんよう